「ICT夢コンテスト2023」の応募用紙を記入する上で参考になるように、各項目における留意点を下記に示します。

 記述は、実際の2022年度入賞者のものを、本人の許諾を得て抜粋した形で引用させていただき、一部の審査員からの関連するコメントを記しました。

 ICT夢コンテストにおける実践事例の評価は、あくまでも実践のアイデアとその成果が大きなポイントとなりますが、その良さを適切にアピールするためには、各項目が全体のテーマと概要につながり、整合性をもって記述されていることが審査における基本原則となります。

実践事例応募用紙 記入上の留意点

分類先進性普及性
応募者聖学院中学校高等学校 教諭   山本 周高等学校 教諭   米田 謙三 
実践事例タイトル教育DX時代におけるアナログとデジタルが融合したSTEAM授業実践金融・消費者問題を学び、考え、議論し、体験する教科横断・STEAM授業
実践の概要 算数・数学の学習指導要領においてICT活用が求められ、さらにSTEAM教育のような教科横断的な学びの形が提唱されている。本実践は学校の環境を最大限活かしつつ、授業外においても学び続けることができるようなCADソフトをはじめとする様々なICTツールを活用した。効果的にICTツールを用いることで主体的に思考し、友達と協働し、好奇心をもって学びを深めた数学中心として教科横断的な授業実践である。 一人一台のデバイスの環境を活用しハイブレッド授業で外部機関と連携して、最低限の時間数で実施できる金融リテラシーと消費を考える実践に取り組んだ。金融分野ではゲーミフィケーションスタイルの授業で、考え、議論を深めながら体験する形式で特に投資について理解を深め、消費者教育では住みやすい社会を作ることの大切さを再認識させる内容をメインにした。また生徒はアウトプット活動(中学生への授業など)に積極的に取り組んだ。家庭科・情報科と連携した教科横断、STEAM実践の事例である。
実践事例

審査委員からのコメント

 実践事例が「先進性」か「普及性」かの区分で迷う、という意見が多く寄せられています。上記の2例は内容的には似たような実践であり、どちらも先進、普及、双方の要素を含んでいます。最終的には申請者自身がどちらの要素をより重視するかを確定し、選んだ視点をよりアピールする記述でまとめることが重要となります。
 山本実践は、スピログラフに焦点を当てて「先進性」を、米田実践は、金融教育などテーマは最新の課題でありながら、アウトプットなどの状況の設定を工夫することでその充実をめざすことで、「普及性」に留意した論述を展開しています。読む側に対して、何を強調して実践の特徴を納得させるかがポイントとなります。

(1)ICT活用の目的とねらい

分類先進性普及性
(1)ICT活用の目的とねらい ICT活用に関する算数・数学科の指導に求められる観点として以下の2点が挙げられている。①「具体を通して、算数・数学の内容を確実に理解し、数学的に考える力を育成することが必要」、②「日常生活や社会の複雑な事象の問題を解決するために、様々なデータを収集・整理・分析し、その結果をもとに判断・表現できる力の育成が必要」・・・・(略)
そこで本実践では、STEAMを意識したスピログラフを題材とするICTを活用した体験や試行錯誤、対話を中心とする授業実践を行った
 本校は、BYODの環境でリアルとオンラインのハイブリッドで授業実践すること、「公正に個別最適化された学び」を実現するため、ICTを基盤とした先端技術・教育に係るデータをかつ小課題すること、の2点を目的とした。・・・(略)
そこで今回の実践では下記のポイントをねらいとして実践した。
①リアルとオンラインのハイブリッドの授業実践であること
②教師と専門家の経験知と科学的視点のベストミックスであること
③個別に最適で効果的な学びや支援であること

審査委員からのコメント

 目的とねらいは、実践事例を一本の筋で記述する上で前提となります。ここで記述された内容は、ただ最初に提示されるだけでなく、後の記述でも何らかの形で触れていることが求められます。そのため、目的とねらいが簡潔に箇条書き等でまとめられていると、読む側にとっては、それらのポイントが後の文章でどのように記述され、展開されているのかを確認しながら審査を進めることができます。
 逆に、目的とねらいについて、冒頭で示されただけで関連する記述が無い場合は、実践そのものの価値とは別に、応募用紙として減点の対象となることもあります。

(2)実践の特徴・工夫(先進性はあるか、または普及性があるか)

分類先進性普及性
(2)実践の特徴・工夫(先進性はあるか、または普及性があるか)・・・(略)・・・あらかじめ、筆者がCADソフト(Tnkercard)でスピログラフの元となる歯車をモデリングし、レーザーカッターで作成した。生徒は2人1組でワークシートに従いながら複数のスピログラフを描いた(写真1)。 社会科と家庭科で連携してテーマを3つに設定した。テーマ①:契約とキャッシュレス社会(1コマ目)、テーマ②:資産形成(2コマ目)、テーマ③:資産形成と消費者市民社会(3コマ目)。・・・(略)・・・
テーマ②では、ハイブリッド形式で貯蓄や投資が、私たちが暮らす社会の将来のあり方と結びつくことをゲーミフィケーションで実施した。スライドを確認しながら(図1・図2)、表計算(図3)を協働で活用しながら・・・

審査委員からのコメント

 この項目では、実践の具体的な様子をいかに視覚的に読む側にイメージさせることできるかが重要となります。そのため、毎年入賞者の全員が2~3枚の写真を適切に挿入し、記述との相乗効果でイメージ化に努力されています。写真は動画と違って1枚で多くの伝えるべき様子を取り込むことができます。実践の全体を俯瞰できる写真を1枚、グループ学習の様子など実践の特徴を切り取った特徴的なものを2枚ほど使用するなど、珠玉の写真を厳選し枚数が多くなり過ぎないこともポイントとなります。なお、上記の記述例のように記述と図表の関連を( )を用いて明記して下さい。アンケート結果等は、表として簡潔に重要なところを抜き取って示すのが良いと思います。

(3)実践の成果(子どもたちや教員はどう変わったか、絆の深まりは見られたか等)

分類先進性普及性
(3)実践の成果(子どもたちや教員はどう変わったか、絆の深まりは見られたか等) アンケート調査(①新しい発見があったか、②好奇心をそそられたか、③将来、役に立つと思うか、④身に付けたい内容か)の4つの項目に関する結果を図表で示した。
自由記述として、「いつもは社会で使うという印象がない数学だが、どのように使われているかが具体的に想像できた」「次は実際に自分でレーザーカッターや3Dプリンターを使って作りたいです!!」など生徒の意識と行動変容を感じる回答を得ることができた。
 生徒の具体的なアクション(行動変容)の実践
①法務省とアプリ作成コラボ実践「大人への道しるべ」を作成した。
②下級生に対して金融・消費者教育などの授業を実施した事例
③起業した事例:キッチンカー事業を始めた生徒が出た。
④地域との連携例:大阪府千早赤坂村とのコラボを始めた。
⑤参加した全員の生徒が個人またはグループで「ビジネスプランコンテスト」に応募した。

審査委員からのコメント

 実践の成果については、山本実践(左)のように厳選したアンケート調査の全体的な結果と個別の特徴的なコメントを示す方法が一般的です。また米田実践(右)のようにコンテストやアプリ作成などがある場合は、具体的な名称を記載することで読む側がネットで検索し、検証することも可能であり、より印象的です。絆の深まりや行動の変容については、アンケートや振り返りシート等の記述で表現することが可能ですが、どのような学習指導上の留意点や工夫によって、そのような成果につながったのかも簡潔に書くことが必要と考えます。実践を読むだけでは、どうしてこれほどまでの大きな成果につながったのかが理解できない事例も少なくありませんのでご留意下さい。

以上