1.はじめに

 令和元年度から推進されたGIGAスクール構想により、児童生徒の1人1台端末環境が整備されたことで、学習履歴等の情報をデジタルで蓄積することが容易な環境が整った。それにともない、教育データの効果的な利活用の必要性が高くなり、“学習系データを横断的・体系的に活用するためには、使用する教材・サービスに関わらず共通のコードを使用することが必要” (*1) という考え方に基づき、学習指導要領の内容・単元等に共通のコードを設定し割り当てた「学習指導要領コード」が発表された。
 この学習指導要領コードは、当プロジェクトで数年来、調査研究してきた「学習要素リスト」の考え方と類似するものである。これまでJAPETとして学習要素リストの考え方を文部科学省に提言を行ってきた経緯もあり、当プロジェクトの調査研究の内容がある程度踏まえられたものと考える。
 「学習要素リスト」は、学習指導要領や教科書の単元等、学習のまとまりを踏まえながら、教科書や教材の連携、学習進度の把握、指導計画の作成などの目的のために学習内容を最適な粒度で細分化したものである。
 「教科書や教材の連携」、「学習進度の把握」、「指導計画の作成」のためには、「教材のある場所」や「学習の現在地」を指し示す位置情報が必要となるが、「学習要素リスト」は、これらを指し示すための基本となる「学びの地図の番地」という考え方で本調査研究を進めてきた。
 文部科学省から「学習指導要領コード」が公表されたこともあり、当プロジェクトの行ってきた「学習要素リスト」の調査研究は一定の成果が出たものと考え、当プロジェクトでの調査研究は一区切りつけることとした。 今年度は、次に続く新しい調査研究テーマを検討するために、参加企業のメンバーと情報交換やそれをベースにしたさまざまな協議を重ねてきた。

  (*1) 文部科学省 「学習指導要領コードについて」(https://www.mext.go.jp/content/20201016-mxt_syoto01-000010374_3.pdf)より引用

【学習要素リストと学習指導要領との関係】
 学習要素リストは、学習指導要領の内容をより細分化したもので、その粒度は、教科書会社や教材会社の編集方針やその教材やサービスの目的、またはユースケースなどにより適切な粒度は異なることが想定される。すべてに最適な粒度を検討することは現実的ではないと考え、教科書や教材によって定義された単元や項目の構成にある程度合った平均的な粒度を学習要素として定義してきた。学習指導要領と学習要素との関係の一例は、次の図(図表1)に示すようなものである。

図表1 学習指導要領と学習要素との関係(例)

2.定例会議による活動内容

 月例の全体会議では、本プロジェクトの研究テーマに関する協議を重ねたり、それに関係しそうな教育データの利活用に関する政策の情報などをプロジェクト内で共有したり、情報交換や意見交換を行った。

催 日  協 議 事 項
4 月16日第1回会議 ・学習要素リストの今後の研究活動について ・文部科学省 教育データの利活用に関する有識者会議の情報共有 ・スタディ・ログの勉強会
5 月21日第2回会議 ・プロジェクト・部会への参加申込と全体会の案内 ・今後の研究テーマの協議(アンケート) ・国立情報学研究所のオープンハウス2021での「初等中等教育におけるデータ利活用の現状と課題」の堀田先生ご講演情報の共有  
6 月25日第3回会議 ・会員交流会(授業目的公衆送信補償金制度などについて) ・今後の研究テーマの協議(前回の続き)  
7 月26日第4回会議 ・学習指導要領コードの発表にともなう、学習要素リストの研究の区切りについて ・今後の研究テーマの検討
9 月9日第5回会議 ・国立教育政策研究所の研究企画開発部の片岡氏による教育データサイエンスセンターの設立の概要の共有 ・令和4年度文部科学省 概算要求等の発表資料共有  GIGAスクール構想に関する各種調査の結果について  令和2年度学校における教育の情報化の実態等に関する調査結果 など
10月26日第6回会議 ・デジタル庁発足に関する情報の共有 データ戦略推進ワーキンググループの資料共有
11月18日第7回会議 ・デジタル庁の「教育データ利活用ロードマップの 検討状況について」への意見とりまとめ
12月16日第8回会議 ・今後の研究テーマの検討
1月25日第9回会議 ・来年度の研究テーマの具体案の検討
2月24日文部科学省 学びの先端技術活用推進室との打ち合わせ ・「基本的な機能を備えたデジタル教科書の要件に関する資料提供」の情報共有 ・来年度の研究テーマ「デジタル教科書の利活用に関する研究」について

3.その他の活動

■文部科学省 オンライン学習システムの全国展開、先端技術・教育データの利活用推進事業 「学習指導要領コードの利活用に関する調査研究事業」への参加

 本事業は、文部科学省からの委託によりICT CONNECT21 が調査研究を行ったものである。事業概要は、学習指導要領コードをベースに、それらデータの利便性を高め、利活用を推進するため、教育コンテンツへのコード付与の支援や、コードが付与されたコンテンツの連携システムの構築と運用について調査研究を行うとするものである。

 システム構築には、当プロジェクトのメンバー企業の一部も参加した。また、構築されたシステムに対して、教科書・教材を制作している各事業者が保有する実際の教育コンテンツを用いて実証テストに参加協力した。この実証テストにも、当プロジェクトのメンバー企業数社が参加し、教育現場で利用される教育コンテンツに関し、教科書や教材制作企業としての立場から、どのようなニーズがあるか、システムが正しく機能するか、どのような改善点があるか等の観点からアンケートに答える形で事業に協力した。

 また、先述のように学習指導要領コードと学習要素リストのねらいが類似していること、そして、同省の「ICT を活用した学習成果の把握・評価に向けた学習要素の分類等に関する調査研究事業」にて、当プロジェクトが研究成果をまとめた経緯があることから、「学習指導要領コードの利活用に関する調査研究事業成果報告書」に当プロジェクトの取り組みとして、学習要素リストの概要や考え方が掲載された。合わせて本事業にてフォーカスされた学習指導要領コードが付与されたコンテンツの連携システムの構築についても、当プロジェクトで開発した学習要素コードによるデジタル教科書とデジタル教材の連携システムのプロトタイプについても紹介された。

図表2

4.今後の調査研究テーマの検討

 当プロジェクトの今後の調査研究テーマについては、参加企業のメンバーから意見を収集しながら、いくつかの候補を選定し、それについて議論を重ねた。テーマは、おもに下記のようなものが挙がった。

  • 学習ログ(教育データ)について
  • Google for Education、Microsoft Teams、Apple Classroomなどの教育用プラットフォームへの連携について
  • アクセシビリティ(特別支援教育対応や教科書ビューアのUI標準化など)
  • 教育データの利活用についての当プロジェクトとしての提言など

 これらのテーマについて、各社のビジネスに直結するものや、今後、備えるべき知識やノウハウなど、様々な観点で議論をおこなった。
また、教育分野での検討や利活用が進んでいる。また期待される技術動向等について、プロジェクトメンバー内で知見を有する方からの情報提供等による勉強会も開催した。
下図(図表3、4)は、それら技術動向のいくつかのうち、「学習ログ」に関する勉強会で提示された資料の一部である。

図表3

図表4

5.今後の活動方針

 先述の通り、これまでおこなってきた「学習要素リスト」による標準化を中心に考えた調査研究については、文部科学省から「学習指導要領コード」が公表されたことで、一区切りをつけることとした。
 今後、学習指導要領コードをもとにした調査研究事業が立ち上がったり、実際の運用フェーズでもいくつかの実践事例が出てきたりすることが予想される。一事業者によらない標準的なコードによる教材間の連携など、当プロジェクトが目指してきたことが、今後少しずつでも実現されることに期待したい。
 そして、当プロジェクトの今後の調査研究のおもなテーマは「教科書と教材、各種システム間の相互運用性の研究」として、デシタル教科書の普及・拡大に向けた調査研究を次に記すような項目立てで細分化したテーマで進めていきたいと考える。

  • 学校におけるネット環境の調査研究
    JAPETが受託している文部科学省のICT活用教育アドバイザー事業にて、相談が多い案件の1つでもある。先進的な取り組みをしている教育委員会等の実践事例の収集を行う。
  • デジタル教科書(学習者)の活用についての調査研究
    普及・拡大に向けて活用事例を収集し、それを告知していく活動は継続的に必要である。
  • デジタル教科書のプラットフォームの違いによる課題の整理
    デジタル教科書はビューアによって、操作性に違いがあるが、教育現場での課題を収集し整理する。

これらの調査結果は、報告書等の形にまとめることを目標に進めていきたい。

 本プロジェクトには教科書会社、教材会社、教材流通会社、校務系システム会社、IT関連会社など様々な業態の企業の皆さまが参加してくださっている。そして、毎回、熱心に議論していただいている。ご参加いただいたメンバーの皆様、応援してくださった企業の皆様、そして事務局の皆様に心より感謝申しあげたい。