1.部会の概要と活動趣旨

 教育ICT課題対策部会(以下部会)は、従来から教育分野で進められてきた教育の情報化や学校ICT化について、本来の目的と実際の学校ICT整備・活用の実状のギャップに対する課題とその対策の検討を行い、その普及を促す活動を実施するものである。
 本部会では、なぜ1人1台環境を整え、学習者自身がICTに馴染み、活動のツールとして使いこなすことが重要であるかの理解を啓蒙すべく公開イベントを実施しメディア露出を行ってきたが、内容はどうあれ1人1台の端末導入は行われた。このあとは、活用するためのインフラが適正か、端末が正しく個々の児童生徒そして教職員の日常ツールとして使われているかどうか、のフェーズとなる。今後は本部会の活動もこれに追従しその啓蒙に移すこととする。

2.令和3年度の活動

 令和3年度もすべてオンラインでの会議開催となり、部会活動のアウトプットもオンラインでできることが中心となった。今年度は、「デジタル・シティズンシップ」に注目し、9月、1月、3月に次のテーマでオンラインセミナーイベント3回を実施した。

第1回 デジタル・シティズンシップの基本
第2回 事例をもとに保護者との共通理解のはかり方
第3回 デジタル・シティズンシップの実践報告とパネルディスカッション

 以下に3回のイベント内容を紹介する。

(1)デジタル・シティズンシップで身に付けよう!『子ども達の未来を切り開くチカラ』と『学び方』の再定義 [2021年9月25日(土) 開催]

■実施方法
 パネリストのZoom参加によるオンラインディスカッションをYouTubeライブにてネット配信。終了後、申込者に対して数日間リプレイ視聴を公開した。事前に申込者より質問を受け付け、当日の第二部でその中のいくつかを取り上げて講師の方々に議論いただいた。事後にアンケートの入力回答をお願いした。

■講師
・芳賀 高洋 氏 (岐阜聖徳学園大学教育学部・准教授)
・豊福 晋平 氏 (国際大学GLOCOM准教授・主幹研究員)
・今度 珠美 氏 (鳥取県情報モラルエデュケーター・国際大学GLOCOM客員研究員)

■セミナー内容要旨
 本部会では、GIGAスクール構想での1人1台端末の整備が進む中で見えてきた大きな課題の一つを、「その善き使い手の育成」と捉え、本年度の活動における最初のイベントとして、「デジタル・シティズンシップ」に焦点を当てたオンラインセミナーを行った。「デジタル・シティズンシップ」の基本的な概念や考え方、情報モラルとの違い、さらに授業での実践事例など、前半は先端研究をされている3名の先生方による講演と、後半は討論会を実施した。
 前半の最初に、本部会のアドバイザーでもあり、ICT教育における端末の文具化とGIGAスクール構想の必要性を唱えてきた豊福先生より、GIGAスクール構想の基本的な考え方について、「端末は文具として扱うべきもの」、「情報モラルからデジタル・シティズンシップへの移行の必要性」、「デジタル・シティズンシップへの誤解」、「将来への展望」について講演いただいた。
 次に、10年以上前から情報モラル教育にも携わっている芳賀先生より、自律的な学習者を育てる個別最適化されたシティズンシップ教育の推進について、および端末画面著作権教育からみたデジタル・シティズンシップの理解の仕方について、講演いただき、続いて、子供たちの発達研究を長年行っている今戸先生より、「デジタル・シティズンシップ」の授業を実際に小中高で行っている中で、それぞれの「児童・生徒への接し方」や「教員側から見た授業の進め方」、「デジタル・シティズンシップの授業の開始前と後における生徒の反応」、「デジタル・シティズンシップの学び方」など、実践に役立つ、より具体的な講演をいただいた。
 15分間の休憩後、後半では本イベントへの視聴参加者からの質問をもとにいくつかのテーマを絞り、3名の先生方によるデジタル・シティズンシップから見た回答という形式でディスカッションを行った。
 「情報モラル」との違いについては、「情報モラル」の判断は〇×やブラックリストで行われる半面、デジタル・シティズンシップによる判断基準は本人で決められるようにオープンエンドの考え方を習得させ、習慣化させることが必要であること、そして、「ネットいじめ問題」に対しては、子供目線から見た「デジタル・シティズンシップ」の理解と保護者への普及啓発が大事であり、原則を身に着けてもらったうえで、その後は自身で考えることができるようになってほしいということが示された。具体的には、いじめを受けた子供から声を上げたり、アップスタンダ―の育成、保護者による子供の日常観察とコミュニケーション環境を整える大切さ、さらに子供たちのネットへのデビューをさせるための指導が必須となってきている。
 また、「デジタルと健康」に対するデジタル・シティズンシップの考え方については、「スマホ脳」や「ブルーライト」などは、「医学的、科学的根拠」をもとにその判断と指導をすることが大切であることが示された。
 最後に、「デジタル・シティズンシップ」について言葉のイメージとして誤解されるケースがあるが、「原則(定義)は情報の発信者は、その発信内容の解釈や発信理由を明確に説明する責任をもつものである」とした考えを、学校関係者の皆さんで協力して作り上げていきたい、とのメッセージをもって終了した。
今回は、「デジタル・シティズンシップ」の原則の理解を深めたが、次回はさらに理解を深める活動に繋げていきたいと考える。

(2)『GIGAスクール時代におけるデジタル・シティズンシップの共通理解を目指して ~ICTの善き使い手を育てる伴走者として~』 [2022年1月29日(土) 開催]
■実施方法
 パネリストのZoom参加によるオンラインディスカッションをYouTubeライブにてネット配信。/sli.doによるYouTubeライブ聴講者からの意見・質問受付。
■講師
・コーディネーター : 国際大学GLOCOM 主幹研究員/准教授 豊福 晋平 先生
・パネリスト :世田谷区立東玉川小学校   安藤 睦  先生
        名古屋市立白水小学校    林 一真  先生
        雲南市立吉田中学校   谷口 将人 先生
■パネリスト発表内容要旨
【豊福先生】デジタル・シティズンシップについて説明。教員による一方的な利用抑制から子どもたちが自分の道具にしていくことが大事。経済産業省STEAMライブラリーで公開される「デジタル・シティズンシップ」教材の紹介。
【安藤先生】「学校や家でも必要な時しか使わない」から、「安全・責任・大切を軸に家庭で話し合う」へ。当初はクレームもあったが、PTAの理解もあり、子どもたちの姿も変わった。大人も一緒に学んでいく。
【林先生】テクノロジーは必要である。自分の考えをクリエイティブに作っていけるようにする。「子供を信頼し創造的な活動を阻害しないこと」が大事。子どもたちに「タブレットをどう使うか」を考えさせた。この授業をして良かったという子どもが多かった。
【谷口先生】家庭との連携でゴールイメージが大事。テクノロジーの良き使い手として、日々の生活や学びにテクノロジーを役立てる、というゴールを考えている。家庭と連携して自己コントロールする力、判断する力を付けるようにしている。
■ディスカッション内容主旨
 授業統制から自律を促す内容に変化していかなければならない。情報モラル教育との住み分けについては、住み分けというまったく別個のものという考え方ではない。「怖いものである」という一方的な押し付けだけをするのではない、自分で考えて良し悪しを判断できる状況にする、という情報モラルを包括した概念がデジタル・シティズンシップである。最初から、みんながみんな「デジタル・シティズンシップ」に賛成ではない。対話し、理解を深め、「自律」が生き抜く力の一つであることを共通理解としてGIGAスクール端末の活用に取り組んでいく必要があるのではないか。

(3)『学校日常のデジタル化とデジタル・シティズンシップ教育~GIGAスクール端末を自分のモノ化する~』 [2022年3月12日(土) 教育の情報化推進フォーラム内開催]
■実施方法
 「教育の情報化推進フォーラムオンライン」の中で当会主催によるセミナーを企画実施した。事前参加申込者に対するウェビナーによる配信を行った。/セミナーの中で事後アンケートの入力を呼び掛けた。
■講師
・司会:山野 志緒里 富士電機ITソリューション株式会社
・コーディネーター : 国際大学GLOCOM 主幹研究員/准教授 豊福 晋平 先生
・パネリスト :広島女学院中学高等学校      今田 英樹 先生
       東京学芸大学附属小金井小学校  鈴木 秀樹 先生
       東京学芸大学附属小金井小学校  小池 翔太 先生
       姫路市立手柄小学校       三浦 一郎 先生
■パネリスト発表内容要旨
【今田先生】学校日常のデジタル化とデジタル・シティズンシップ教育について紹介。
ICTの問題が続出するクラスは生徒に問題があるのか?教員の考え方にも原因があるのでは?と教員と生徒双方へのアプローチが必要。生徒には問題を自分で選び、なぜそれが問題か、どうしたらいいのか、ということを考えさせた。教員には教員も生徒と一緒になって考えていくことがデジタル・シティズンシップの基本であると伝えている。
【鈴木先生】1人1台タブレットの2年目の到達点を主題に実践紹介。6年生社会科の授業でぺーパーテストでは測れない能力の実践。「超高齢化社会についての問題、諸外国と比較しての自分の考え」など4つのテーマから1つを選び1時限目からはじめ15時35分の提出期限までにパワーポイントにまとめムービーで提出。友達から意見をもらったり議論しながら進めた。子どもたちからは「疲れたが、自分のわからない問題を深堀できて良かった」などの感想が寄せられた。2年間文具として使えばこの程度は使えるようになる。
【小池先生】係活動による学校日常のデジタル化の試みについて紹介。4月に1人1台端 末導入。毎日持ち帰り、連絡帳として利用。係活動チャネルを設置。5月に級内通貨導入。6月よりデジタルドリル配信。10月に学級内通貨デジタル化。学びの社会化につなげることができた。
【三浦先生】自律と活用というコンセプトを手掛かりにしたデジタル・シティズンシップ教 育の実践を紹介。朝帯学習の時間を利用しGoogleMeetで全クラスをつないで3名の情報担当でコモンセンスの動画を活用した授業を実施(10回)。初年度なので1年生から6年生まで全員、メディアバランスについて自律的に学んだ。
■ディスカッション内容要旨
 以下の3つをテーマにパネルディスカッションを実施した。
・情報モラルとデジタル・シティズンシップとのアプローチの違いをどう意識しているか?
・学習者中心の働きかけを関係者にどう説得するか?
・うまくいってない学校の対応方法やチェックポイントは?

「先生が挑戦している姿を子どもに見せることの大切さ」、「最初から全員は無理なので、身近な小さなところからコツコツやること」、「自分で取捨選択行動基準ができるようになるのがデジタル・シティズンシップ教育」、といった話題でディスカッションが進行していった。ICTは問題事例が話されることが多いが、その5倍くらい良い事例の話をしようという勧めで締められた。

3.令和4年度の活動について

 令和4年度の活動としては学習者端末があることが前提となり、端末を取り巻く環境(ネットワーク品質やアプリケーション)の問題解決のほか、各地の学校で端末の文鎮化が起きないようにするためにさらに現場の意識を変えていくための策を検討していく必要がある。
本部会としては引き続き、学習者が主体の、学習者にとって本当の意味での教育情報化の取り組みに、寄与していきたいと考えている。